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"I don't stop it even if anyone refused my behavior." "Why are you so selfish ?" "Of course, because I am a hypocrite."
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 非公式サークル『異世会』の目的は、違う世界にたどり着くことである。
 先輩曰く、
「人がいっぱい居たら、誰かそこに入口があることに気づくだろう。だから人の居ない所に入口があるに違いない。」
だ、そうだ。
 故に、非公式サークル『異世会』の活動は、町内の人気のない場所の調査である。

 より正確に言うなら、人気のない場所のお掃除である。

「場所をお貸しいただき、ありがとうございます。」
「いやいや、誰も来ないからねぇ。本当に給料とか要らないのかい?」
「はい、私たちの活動として場所をお借りする以上、掃除くらいはさせて頂かないとこちらとしても申し訳ないですから。」
「すまないねぇ。この前も公園の空き缶を全部拾ってくれただろう?あれ、主婦会の人が随分有り難がっていたよ。また頼めるなら頼みたいくらいだってさ。」
先輩と宮司さんが和やかに話している。活動の内容が異世界探しだと聞いたらたいそうお引きあそばされるに相違ないが、町内の皆さまからは実にありがたいことにお掃除ボランティアのように思われているらしい。ああ、自己解決って素晴らしい。
「それじゃあ、僕はちょっと出かけるから。よろしく頼むよ。」
そう言って宮司さんはバイクに乗って颯爽と出かけていった。借りる方も借りる方だが貸す方も貸す方だと思ったのは俺だけだろうか。俺だけだろうな、この状況を見てるのは当事者と俺だけなんだから。にしたって神職の人がバイクってどうなの、バイクって。
 
「よし、じゃあ私はこっちをやる。君はあっちを頼む。何か見つけたら知らせてくれ。」
自分を取り巻く状況、それに慣れてきた自分、双方にげんなりしている俺をよそに、先輩は目を爛々と輝かせて分担をし、意気揚々と奥の社務所の方へ入っていった。
「さて、それじゃあ俺もやるか…ん?」
箒を手に取り一応のやる気を出していると、視界に一瞬黒いものがよぎったような気がした。なんとなく視線を左へ向けたが、あったのは木と去年の秋からとっちらけであろう枯れ葉だけだったから、多分野良猫の尻尾でも見えたんだろう。
 
 夏の暑さは衰えを見せず、木陰でも快適とは程遠かった。稀に吹いてくる風だけが唯一の救いだったが、いくら望んでも中々やってこない風は人間の手懐け方を心得ているななどと先輩に毒されたような思考が持ち上がってくる程に風は中々吹いてはくれなかった。
 箒をせっせと動かしながら、俺はぼうっと別のことを考えていた。いや、考えていたのかもわからない。色々な単語や気持ちが心の中をぐるぐると渦巻いているのをぼんやりと眺めて、それに触れない程度の距離で手を伸ばしているような、ひどく曖昧な思考。
 そんな状態からはっと気付いて顔をあげると、周囲はどっちを向いても森という状況になっていた。
「うわ…迷ったかな。」
独り言に対する回答はなく、一種の混乱状態のままでとりあえず一歩二歩と進んだ。
 
進んで、しまった。
 
 ふっ、と身体が軽くなる感じがした。
 次に何故、と疑問を抱き、その間に身体は前のめりに傾いだ。
 眼球は目の前の情景を正確にとらえて脳へと送る。
 そして俺は再び疑問を抱いた。
 さっき四方を見回したときはどっちを見ても木、木、木だった。
 いくら混乱していてもそれくらいは見間違えるはずもない。
 ならば何故、目の前にこんなにも開けた谷が口を開けているのか。
 ならば何故、自分は崖から転げ落ちようとしているのか。
 解決し得ない疑問を処理すると同時に、頭のどこか端の部分が冷静に思う。
 ゆるやかに傾いていく自分を客観的に観察しているこの状況。
 これを俗に、走馬燈と言う。
 知ってるよ、とつっこみを入れる暇もなく、俺の視界と意識は暗く沈んでいく。

 光を失う前の刹那、今となっては本当かどうか確かめることは出来ないが、ひと際強く。
 風が吹いたような、そんな気がした。
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